なんとなく、そう、なんとなくだ。
なんか青くてひょろくて変な眼鏡かけてる奴、そいつがなんとなくここにいる奴らと違う気がした。
だから大人しく話を聞いただけだ。
殴りもしないで真っ直ぐ俺を見て、話をしたのはこいつだけだったから。
頭を撫でられたのは何年ぶりだったか。
…お父さんの面影を見たと言ったら嘘になる、こんな青ゴボウ、似ても似つかない。
取り敢えずコイツ…ノークトは俺を押し付けられた哀れな苦労人、って所だろ。
…ま、ノークトの所以外にいるつもりもないが。
他の奴らは嫌いだ、まだノークトの方がマシ。他の奴らは人外、人なんかじゃない、モノでいい。
「…だからってなぁ、クレセア」
「何か問題でも？」
「大有りだ!!こんの馬鹿っ!!」
今日は部屋も目茶苦茶にしてないし、脱走もしていないし、発砲もしてない。
ノークトは俺が座ってるモノを指さして怒ってる。
あぁ、コレの上に座っちゃいけないのか？
「…ったく、今度は何があったんだ？」
「何か小突いてきたから、小突き返した」
「絶対そんなレベルじゃないだろ、お前もそいつも」
まぁ、頬は痛いし口は切れてるしで痛いけど。切り傷や弾傷よりはよっぽどマシ。
…ん？俺の椅子が呻いてる。全く、煩いな。
「まてまてまて!!」
「なんだ」
「歯を折ろうとするなっ!!」
「煩いから」
降りろ、と俺を引っ張る。
ズルズルと引きずられて降ろされた。
あーあ、俺の椅子他の奴らに持っていかれた。
座り心地良かったのに。
「お前なぁ…」
「なんだ」
「まず人を人と思え」
「人は人だ」
「…俺は？」
「人」
「…じゃあ、あいつは？」
「ただの屑椅子」
「………はぁ」
何か悪い事言ったか？
首を傾げれば、そんな事したって駄目だ、と頭を撫でられた。
「あいつだって人だ」
違う、違うね。
あれは人じゃない、絶対に。
『人』をけなす奴なんて人じゃない。
『人』のあんたとは違う『モノ』なんだよ。
「屑は屑だ。人と同じ動作をしていても、屑だ」
「頑固だなぁ、オイ」
気に喰わないんだ、屑の癖に偉ぶって『人』を馬鹿にしたり、けなしたり。
俺を見て殴りやがる。
「……口煩い青ゴボウが」
「お前絶対俺を人だと思ってねぇだろ…」
「これはあだ名だ、あだ名」
最初は仕方無し、に俺の面倒を
見てくれてるのかと思った。
だがそれは違うというのがすぐに分かった。
俺をちゃんと『人』として見てくれるのはノークトだけ、だからノークトを『人』と見るのは当たり前だろ？
だけど屑は『人』を馬鹿にするんだ。
慣れてるから、なんて『人』は苦笑するけど、俺は許せない。
屑の癖に、屑には屑の思考しか出来ない癖に、簡単にふっ飛ばされる屑の癖に!!
「んな怖い顔してんじゃねーよ」
「生まれつきだ」
「生まれつきって…まぁいいか。ほら、傷の手当するぞ」
「いらない」
「いるんだよ」
ひょい、と脇に抱えられ医務室に運ばれた。
俺よりずっと背が高いノークトは、簡単に俺を抱えてしまう。
悔しいからノークトを抱えられるようになるよう、鍛えてる。
いつか肩に担いでやる。
「…なぁ」
「ん？」
「あー……お前さ」
「さっさと言え、青ゴボウ」
「ゴボウ言うな!!糞餓鬼!!いい加減俺の名前を覚えろっ!!」
「覚えてる」
「…一回も呼んだ事無いだろ」
「……」
「少し位、俺達を頼ってくんねぇか？」
「……」
「まだ無理、か？」
「……」
「そうだよな、あんだけ酷い目にあっちゃあな…」
忘れていない。
牢に入れられ、暴れれば縛られ、何も言わなければ殴られた。
だけど、
「…お前だけ」
「ん？」
「お前だけは何もしなかった」
そう、ノークトだけは。
「お前は人だ、後は屑だ。俺はそれでいい」
それじゃ駄目か？と見上げれば、
「充分だ」
と頭をくしゃくしゃにされた。
くっ…くすぐったい…!!
「やめろっ!!くすぐったい!!ノークト!!」
「…え？お前今」
「なんだ青ゴボウ」
「……」
何だかわからんが、そんな顔するな。
(もう一度言ってみろ、クレセア)
(青ゴボウ)
(ちっがぁぁぁう!!!!)
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