「なぁ、サト」
「なんだよ」
遠い昔のはなし。
まだ俺の体は綺麗で、傍にはルルアがいなくて、別の誰かがいた。
俺達は孤児で、互いに身を寄せ合って生きてきた。家族だった、血は繋がって無いけど大切な家族だった。
帰る家もない、暖かい布団もない、愛をくれる両親もいない。
だけど俺達にとっては、一緒にいる場所が俺達の家で、身を寄せ合えば暖かくて、愛をもらってあげていた。
俺達はずっと一緒だった。
「あのさ」
「さっさと言え」
「…腹減ったな」
「言うな、余計腹減る」
「言えって言ったのサトだろ!?」
他愛のない会話、他愛のない喧嘩。
食料を一緒に盗んで、一緒に捕まって、一緒に殴られて、一緒に不細工な顔だと笑って。
そう笑って。
笑って、泣いて、怒って
いた
「…サト」
「何も、言うな」
「……酷い……怪我だ」
「……お前も、な」
「…まぁな」
「俺なんざ庇うからいけねぇんだよ馬鹿」
「大切な人を守って……何が悪い」
俺の皮膚の半分が焼かれた日、奴の下半身は粉々になった。
目覚めたら見慣れ無い白天井。病院だという事に気付くのに暫くかかった。
何が起きたのか俺達には分からなかったが、たまたま、雨宿りついでに一夜の宿にしようとしていた廃工場が爆発事故を起こしたらしい。
原因は放っておかれた化学薬品だったそうだ。
「これからどうするか」
「孤児院直行だろうよ」
元気になったらな、とアイツはそう笑って言った。
お腹いっぱい美味い物が喰えて、沢山の家族が出来て、愛を注いでくれるだろう。
そう言って、目を輝かせて、笑って、笑って、笑って
俺の火傷が皮膚に変わった頃、
「サト」
「あ?」
「俺達これからもずっと一緒だよな」
「何言ってんだ」
「一緒にいてくれるよな」
「家族だからな」
「ありがとな」
アイツはいなくなった。
俺達には。
帰る家もない、暖かい布団もない、愛をくれる両親もいない。
だけど俺達にとっては。
一緒にいる場所が俺達の家で、身を寄せ合えば暖かくて、愛をもらってあげていた。
俺は。
帰る家を失って、身を寄せれば体温を奪われて、愛を貰う事も受け取ってもらう事も無くなった。
「なぁ…腹減ったな、ルル」
俺達、ずっと、一緒だよな。
「あらぁ、灑臣」
「んだよ馬鹿」
「馬鹿って何よ!!」
「馬鹿は馬鹿だ」
「もぅ…いいわよ何でも。あらぁ、こんにちは、ル・ル・ちゃん」
「ちるー!!」
「何の用だ、さっさとくたばれ」
「んもぅ…あなたにもルルちゃんみたいに可愛いげがあればいいのに…」
「殺すぞこのキモいカマ野郎が。お前を映す鏡が可哀相だ」
「何ですってえぇぇえ!?うら若き乙女に」
「おカマだろボケ」
「キーッ!!あいっ変わらず素直じゃない子!!………って痛い!!あたしの髪は遊び道具じゃないわよ!!ルルア!!」
「ちるちるー!!」
ルルアは何故かあのカマ野郎に懐いてる。
アイツがいなくなって調度一年後、アイツのようにボロボロになった一匹のチルットに出会った。
雨に打たれて「ちる…」と寂しげに鳴くソイツを、気付いたら腕に抱えて走っていた。
傷薬を盗んで、木に登ってきのみを取ってやって、腕に抱いて寝て。アイツと重ねたのかもしれない。
気付いたらそのチルットに「ルルア」という名前を付けていた。
俺には。
帰る家はないが今はルルアがいる、暖かい布団はルルアがなってくれる、ルルアに愛を与える事が出来る。
「はいはい、ルルちゃん離してね~…それにしてもその髪飾り綺麗ね、欲しいわぁ」
「家族だよ」
「え?」
「俺の家族のモンだったんだよアホが。奴の角を加工したんだ」
「ふぅん…まぁ、形見なら仕方無いわね。アタシもそれを奪う程鬼じゃないわ」
「悪魔だろ」
「何ですってえぇぇえ!?」
「ちるちーる!!」
「だからあたしの髪は遊ぶ物じゃないわよぉ!!」
「後形見じゃねぇから」
「あら、だって」
「今も一緒にいるだろ」
「へ?」
俺達、ずっと、一緒だよな。
今だって、一緒、だもんな。
俺が笑えばお前も笑う。
俺が泣けばお前も泣く。
俺が怒ればお前も怒る。
笑って、泣いて、怒って。
お前は俺で、俺は俺。お前の顔は、姿は、声は、もう俺の瞳にも映らない、鼓膜を響かせない。
だけど一緒だもんな。
お前は俺の体になったんだもんな。
肉も、骨も、内臓も全部、な。
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