リーダーとの出会いはそう、自分がラメールから逃げ出してすぐだった。
まだ幼いオッドの瞳を持つ少年が俺を見つけて介抱してくれたのが始まり。
頼んでないし、傷が見られるのが不快で仕方なかったけど、当時の俺は少年さえも払えないほどぼろぼろになっていた。
全然動けない俺を、少年は何度もやってきては介抱してくれた。
なんでサヴレの集落にラメールがいるのか、とか、何で倒れていたのか、とか何も聞かなかったように思う。
傷は痛まぬか?とか何が食べたい?用意出来るものはほとんどないが…とかそんな感じ。
俺は何も言わなかったけど、それでも少年は俺を助けてくれた。
変わった奴、と思った。
それがリーダーの第一印象だった。
少年はマルス、という名前らしい。
オッドの瞳の事で母親に何かと言われていたのをローリィは聞いた。聞いた、という言葉を使うのは少々違うかもしれない。実際俺はその現場にはいなくて、一族の奴らがその事を話しているのを聞いたのだ。
そういえば、自分もオッドの瞳の事であの女に色々言われたな、と眼帯に覆われた右目にそっと触れた。何度も何度も「違う!」と殴るから、片目を隠す為にこっちだけ髪を伸ばした。
一族でごくたまにオッドの者は産まれて来る。しかしながら、それが何故だかは分かってなどいないし、特に血の束縛についても関係ない。
処遇は様々であるが、マルスのように邪険に扱われる者もいるという。
邪険に扱われる前に、まず一族にいなかったな、とローリィは嘲笑した。変わらずに自分の元にやってくるマルスに少し、興味をもったらしい。
ローリィは傷が癒えるまで暫くここにいることにした。
それから暫くして、少年は青年になろうとしていた。
「一族を抜けるんだって?」
「そなたは…」
「どうも、命の恩人さん」
ローリィは再びマルスの前に現れた。
否、本当は度々様子を見に来ていた。傷も癒え、動けるようになったらローリィは黙ってマルスの前から姿を消した。実際は本人に会わず、様子を窺っていただけである。
興味の対象を見つけた以上、その情報収集に手を抜かないし、自分の足を無駄につけないように頭を働かせ行動する。それがローリィなのだ。
「で?あんたはこれからどうすんのさ。迫害者なんて大変なだけだしさ、やめておいたら」
自分が迫害者であるから言えることではある。
生まれながらの迫害者であるローリィは、別段それが辛いと思った事はない。しかし、歳を重ねたのち迫害者となったものは後悔や仲間へと刃を向ける辛さで苦しむ者が多い。
「…否、某がこの一族で生きる道はもはや見出せぬ」
「じゃあどうすんのさ」
「某と志を共にするものを同胞とし、新たな集団を立ち上げようと思う」
「へぇ…」
「暗殺者集団、名前はそうだな…"Obscurité"」
「"影"…ね。安直な名前」
影に生き、影と共に動き、影から標的を抹消し、影のように消える。
暗殺集団、オヴスクリート。
「そなたも某と一緒に参らぬか?」
ローリィはこっそり嗤った。
「おもしろそうじゃん」
そうしてローリィは彼と行動を共にすることにした。
この一族を抜けてすぐの、迫害者になりたての少年がどのようにして自分を従わせるかを見てみたかった。
力か、言葉か、それとも
「あんたの同朋とやらになってやるよ。でも俺は壊せればなんでもいいんさ、あんたに従う義理はないね」
自分の欲を満たすのに値するものを提供してくれるものか。
ローリィは命の恩人でも関係ないからね、とくつくつと笑った。
彼には義理人情という言葉はない。情を持てば殺される。助ければ襲われる。そんな生活の中で生きてきた彼にとって、そんなものを訴えるのはただの馬鹿野郎でしかなかった。
「…まぁ、よい。おぬし、名はなんという」
「教えてなんかやんないよ。そうだな…俺があんたを従うに値する人物だと思ったら教えたげる」
なんというやつ、というマルスの言葉に、にたりとわらって答えた。
「あんたが邪魔なものは俺にも邪魔。ならあんたの代わりにぶっ壊す、あんたの行くべき場所を開いてやるよ」
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