めがさめた。
「……ぁ?」
慣れない布の感触と、隣の温もり。
すやすやと眠る人物。
「ぁる…た」
小さく呼んでみたが、当の本人は夢の中らしい。小さく寝息が聞こえる。
何故、俺は、ベッドの中に。
しかもアルタって抱きまくらつき。
そういえば、一仕事ならぬ一壊しをして、珍しく疲れたから近くのアルタの家に押しかけて、
「床貸して、寝る」
と転がった…はず。
その後の記憶を必死で思い出そうとするもよっぽど疲れてたのか、中々思い出せない。
そんな俺の悩みなんかいざ知らず、アルタは気持ち良さそうに寝息を立てている。
ぼんやりとアルタの寝顔を眺めながら、記憶の糸を必死で手繰りよせた。
「そうだ…」
『寝るなら俺のベッド使って下さいよ!俺ソファーで寝ますから!』
『いーよ、俺床でさ』
『駄目です!!ベッドで寝て下さい!!』
『じゃあ俺がソファーで寝る。アルタはベッドで寝なね』
『…じゃあ俺もそこで寝ます!!』
『わっ…二人は無理さ!!落ちる落ちる!!アルタは大人しくベッドで寝なさい!!』
その後、アルタを押しやってソファーで寝ようとしたら、アルタがそわそわしながら、
『ローリィさん…こっち来ませんか?』
って俺を連れて行ったんだ。
本当によっぽど疲れてたらしい、人の隣に寝る事なんて普段の自分からしたら『有り得ない』。
ソファーでねよ…いや、床でいいや。
ベッドを抜けようとしたら、
「…んー」
「…!!」
起きた…?
息を潜めて様子を伺えば、しばらくしてまた寝息が聞こえてきた。
まいった、これは動けない。下手に動いたらアルタを起こしてしまう。
「…もー、目、覚めちゃったさ」
生活上一日三時間以下、下手をすれば三日に一度の睡眠で十分な体はすっかり起床している。
きっと眠れない。しかし夜はまだ長い。
「どーしよ…」
ぼんやりとまた、アルタの寝顔を眺めた。
酸素と二酸化炭素を交互に通す、規則正しいポンプの上下運動。
無防備な寝顔。
「……あ」
ムラッ(その表現もどうかと思うけど、それしかピッタリな表現が無い)、と腹の底から込み上げでくる破壊衝動。
何でこんなに無防備に寝られるのか。オヴスクリートでも『危険人物』である俺の隣で。
その白くて細い喉に手をかけた。
力を込めれば簡単に壊れるだろう。アルタは壊れる、俺の手で。
『 コ ワ ス ナ 』
「……っ!!」
びくん、と電流が走ったように、手を離した。
……『壊すな』?
そう、本能が、血が告げた。一族への愛を知らぬ、倍の破壊衝動だけが残る血が。
確かに『壊すな』と告げた。
「…何故」
一族でも、自分の血が流れた家族でもないのに。ただのレセィエルなのに。
何故。
「そうだ。まだ俺、愛って何か聞いてない。教えて貰ってない」
考えが纏まったら俺の考えを聞いて下さい!!とニコニコ笑って言っていた事を思い出した。
だからだ、だからまだ『壊さない』。
『俺が愛について話したら、ローリィさんは俺を壊すんですか?』
……わからない。わからないさ、そんなのわからない。
はっきり『壊す』と言えないのは何故なのか。
そう例えば、小さな犬を可愛がるように、無力な子供を守るように、泣いてる赤ん坊を抱いてあやすように、そんな保護欲が俺の中にあるのは何故なのか。
『彼を守れ』と何かが告げる。
何故そう思うのか、俺にはわからない。
「ねー…教えてよ…アルタ…」
ぼんやりと寝顔を眺める。
アルタは相変わらず無防備に、気持ち良さそうに寝息を立てていた。
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