「おい」
「ん?どうしたトパーズ?」
「どうした?じゃねぇ!!!!」
バギィ、と蹴りを肋骨に食らわせると、グホ!!といってタイドは綺麗に吹き飛んでいった。
何処かへ消えたと思えば、何故血だらけで帰ってくるのか。根堀り葉堀り聞いてやろう、とポキ、と指を鳴らした。
「…いてー」
「何しに行ってたんだ、お前は」
「え?仕事」
「…暗殺とかはネロネーヴェに依頼しろって何度も言ってるだろうが」
「違いますー会社一つ潰してきたんですー!!」
「同じ事だ!!首領直々に危ない仕事に行くもんじゃねぇだろ!!」
苛々してタイドを見れば、心配してくれたのかー可愛いやつめ、とニヤニヤしている始末。
そのムカつく顔に一発入れてやった。お綺麗な顔は潰れた方がまだタイドには似合う。
「ひど…っ!!トパちゃん酷い!!」
「もう一発、いくか?」
「いりません!!」
「まったく、お前が行かなくても俺とか他の奴らに行かせろよ」
「お前はまだ弱いからダーメ」
バシ、と額にデコピンをし、タイドはニヤニヤ笑った。
また殴ってやろうか、と思った瞬間にす、と真面目な顔をする。馬鹿首領じゃない、自分の師匠の顔だった。
「お前はまだ相手の攻撃が避けられない。自分の身にわざわざ傷を負わせて相手の息の根を止めてるようじゃ駄目だ。体は持たない。確かに俺は『敵の攻撃が当たった瞬間が隙になる』とお前に教えた。だがその戦い方にしろ、と教えてはいない。それはお前より強い奴と戦う時に使う最終手段だ、雑魚に使うな」
「……はい」
「だからお前はおちおち仕事に出せねぇ、いっつも怪我して帰って来るんだからな!!今度仕事やるから、怪我しないで帰って来い。そうしたら次からちゃんとお前に仕事やるよ!!」
分かった、と頷けば、ぽんぽん、と俺の頭を叩き、いい子だ、とにっこり笑った。ムカつく。
「俺はな、仲間が怪我したり、死んだりするのが嫌なんだ。言っちゃ悪いがマーレカテーナは密輸専門の組織だ。出来たばかりで人数は少ないし、それなりの実力がある奴はほとんどいない。だってお前がこの組で二番目に強いんだからな」
「…悪かったな」
「ま、だから俺が行くわけだ。それが一番手っ取り早い。それにもう仲間を失いたくないんだよ。他の組の奴に殺されるのも嫌だし……兄貴みたいに、俺達が殺さなくちゃならなくなる
のも」
「…………」
マーレカテーナが本当に初期の時代。
現段階で唯一の裏切り者、タイドの兄カイン。
だが、マーレカテーナに敵対する組織を一掃する為の、カインの命を張った策だった事を知ったのはカインが死んだ後だった。
「一人一人が弱くたって、内側の結束が強ければ何処よりも強くなれる。弱い奴のぶんは強い奴が補えばいい、強い奴の補えない部分を弱い奴が補えばいいんだ。首領命令とか、無理矢理な束縛は俺はほとんどしたくない。首領だとか言っても俺は皆と飯喰って、ゲームして、馬鹿してたい。仲間の結束、それがあれば俺はいい。だがやっぱり俺は首領で皆のリーダーなんだ。なら俺が首領である限り、もう絶対に裏切り者は出さない。それはお前も同じだ、トパーズ。俺に何かあったら次の首領はお前なんだからな」
「……俺以上の器は沢山いるだろ」
「いや、お前だ。もう皆に言っちゃったもんね~…ゴブッ!!」
つくづくムカつく奴だ。真面目にやるなら最後まで真面目にいやがれこの馬鹿タイド。
愛が痛いぜ…とか言ってやがるからもう一発顔に入れてやった。
「でもなぁ、トパーズ」
タイドが寝っころがりながら言った。
その顔はやはり真面目なもの。
「俺が死んだらお前が伝えろよ、この事」
「……」
「絶対に出すなよ、裏切り者。お前に従ってくれる仲間達を大切にしろよ。当たり前の事じゃ無いんだからな、大切な事なんだからな」
「……だそうですよ、皆さん」
「……へ?」
これだけ騒いでれば当たり前か、皆が恐る恐る様子を見ていた。
中には泣いている者もいる。
タイドは全然気付かなかったらしい、ポカーンとアホ面をしていた。
「この馬鹿首領は皆さんが大切で大切で大切過ぎて危ない仕事を自分でやってしまうお馬鹿さんみたいです。ま、私はそんな馬鹿は嫌いではありませんけど」
だから皆さんもついて来るんですよね?
とにっこりとタイドに向かって笑ってやる。
そうすれば数秒後にはタイドは組員達に囲まれ押し潰されていた。
「セールー」
「…んだよ」
「アイス買ってきて下さーい」
「自分で行って来い」
「首領命令ですよっ」
「はぁ!?職権乱用だろ!!」
「貴方のぶんも買ってきていいですから!!お願いしまーす」
「……チッ」
昔、自分とタイドがしていた会話そっくりそのま
まで、なんとなく面白く、懐かしく思ってクスクス笑っていれば、何笑ってんだよ、とセルが訝しげな顔をして言った。
「いえ、そっくりだなと」
「誰と」
「貴方の知らない人、ですよ」
「……?」
自分はタイドとは違うが、結局はタイドと同じ道を歩んでいるのだ、と。
何となくムカつくが、何となくタイドに近づいたような気がして嬉しかった。
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