「マフィアと、協力体制だと?」
ぱさ、と持っていた書類を置いた。
親父の顔が酷く険しい。
「例の事件の事で向こうから協力要請があった。マフィアも各組で協力体制を取ってる」
「本気か?」
「あぁ。利害の一致はしているからな、協力しない理由は無い」
「ある、向こうはマフィアだ」
「今はそんな事言ってる場合じゃねぇんだ、クレセア」
「あいつらが裏切らない保障が無い。俺は反対だ、あいつらと協力するなんて」
「これは決定事項だ。他言は許さない」
上司命令。
恐らくリーダーや他のサブリーダーとも話はついているのだろう。マフィアとも。
「……俺は協力なんてしないからな」
そう言うと思ってたけどな、と親父はため息をついた。
マフィアをあれだけあからさまに毛嫌いしているのだから、俺が協力しないのが目に見えているのは誰がみても一目瞭然。恐らく親父は俺の説得役になったのだろう。
「お前にはなるべくマフィアとの共闘は避けて、俺の護衛やアルジェントアラの奴らと行動して貰うようにする」
「………」
「一人が違う行動をすると全部が乱れる。そこを敵に付け込まれたら簡単に崩れちまう」
「………」
「お前が我が儘言って別行動したらマフィアだけじゃない、俺達にも危険が及ぶかもしれないんだ」
「………」
「分かってくれ、いや、分かれ。クレセア」
机の上の資料をまとめ、親父の机に置いた。
親父の視線が厳しい。自体は緊迫しているらしい事は最近のマフィアらの動きや、例の事件で分かっている。
そんな中にグループの中から俺みたいな反抗的な行動をする奴がいたら元々それぞれが別のグループだ、下手をすれば反感を買い、内部から崩壊する可能性もある。
「……わかった」
それなら、俺にも考えがある。
++++++++
「…あんたが、クレセアくん?」
最後の一人を撃ち殺した時だった。
後ろを向けば、死体に囲まれたやけににこやかな男。
背筋に寒いものが走る、全く気付かなかった。
「なんであんた一人なん?マフィアさんやお仲間さん達と一緒じゃないんかい?」
「……」
「そうだよな、一緒にいられないんよね。知ってるよ、あんたマフィアなんて大っ嫌いだもん」
独特の方言で男はにこにこしながら言った。
「家族とかさ、殺されたんっしょ?マ
フィアに。俺よく知ってるよ、あんたの事。可哀相にね」
気にくわない。きにくわない。
その何でも知っているような瞳が、口調が。俺の何を知っているというのか。
だがそんな事を思っている暇は無かった。
俺の狙い通りなら、こいつは俺に『まだ』危害を加えたりはしないだろう。
「ほら、あんたがさっき殺した奴らってさ、マフィアっしょ?今は協力体制取ってるはずなんにねぇ」
「……俺は協力なんてしていない」
「分かってるさ。だからさ、俺が来たんよ。そんな普通の敵さんにホイホイ近づくと思うかい?俺達そこまで馬鹿じゃ無いんさ」
ね?と男が笑う。
「あんたはマフィアを殺したい、俺達はマフィアが邪魔、利害は一致してるっしょ?」
俺が求めていた言葉と共に。
「俺達ん所に、来ない?」
そう、俺はこの時を待っていた。
「……何か、おかしい事でもあるん?」
男が不思議そうな顔をして首を傾げた。
笑みが零れる。単純、単純過ぎる!!
まさかこんな簡単に引っ掛かるとは思わなかった!!
マフィアと位置的には敵対関係にあったアルジェントアラまでもマフィアと協力体制に入った。その中で唯一反抗する異端物質、それが俺。
下っ端だからたいした情報を持っているとは思ってはいない、だが裏切り者を出して内部に動揺を齎すのには使える。
邪魔になったら処分すればいいのだから。
「……遅いな。もっと早く誘えよ」
「こっちだって色々あんの。あんたの事調べなきゃなんないしね」
「ふん、別にいい。行ってやろうじゃないか」
あっさり俺が味方につくと言うと思わなかったのだろう。
男は目を丸くしていた。
「親友とか、あんたの父親代わりの人を裏切る事になるんよ?それでいいん?」
「俺が……裏切り者?違う、マフィアの仲間になったあいつらが、俺を裏切ったんだ」
よく調べたな、なんて思った。
一体情報元は何処なんだろうか。もしかしたら事件が起こるもっと前から調べていたのかもしれない。
だが関係無い。敵になるならとことん敵になってやろうじゃないか。
「信じられ無いだろ」
「うん、正直言って。あっさりし過ぎてさ、仲間をどうとか脅してやろうと思ってたんに。拍子抜け」
「信じられるかられないか、それはこの後の働きを見て考えるんだな」
「うん、そうさせてもらう」
す
、と男が俺に手を差し出した。
「これからよろしくな、クレセア君」
じゃあな。
「……あぁ」
俺はお前らがこんな奴らにやられない、そう信じてる。
だから、俺はこの手を取る。
「ようこそ、レオンブラへ」
だから、俺はお前らを裏切る。
PR