「火がお嫌いですか?」
話しかけた本人は自分の背後で火に背を向け、嗚咽を発している。吐いた時に苦しかったのだろう。
「全く、よく燃えるものですね」
バシャ、と近くにあったドラム缶を蹴り飛ばし、中に溜まっていた汚水をドラム缶ごと燃え盛る火にぶちまけた。
三つぶちまけた頃、やっとじゅう、と音を立て火は消え、辺りに腐った水の臭いと、プラスチックが燃えた臭いと、人が焼けた独特の臭いが混ざった、何とも言えない嫌な臭いが充満する。
その臭いに慣れた自分が、何となく嫌だった。
「おさまりましたか?」
背中を摩ってやれば、大丈夫、と小さく呟く声が聞こえた。
「大丈夫、ではなさそうですね。ネーロさん」
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銃声が聞こえ、外に出てみれば煙が見えた。近くのスクラップ場らしい。
自分の組の者か、と見てみれば何処かの知らない組の組員がもの言わぬ姿になっていて、傍にはネーロが膝をついていて、近くで少量であるがゴミや木材が燃えていた。
取り敢えずネーロを火から遠ざけ、この位の火なら勝手に消えるだろうと思えば死体に飛び火し更に燃え盛ってしまった。
燃えてしまったものは仕方無いので死体処理を兼ねて程よく燃やす事にした。
ここがスクラップ場であるから出来た事である。
ボヤなどしょっちゅうで、誰も気に止めない。鉄が多いからそう燃え広がらず勝手に消える。
「処理が楽でいいですねぇ」
ゴミを捨てる大きな穴に死体を蹴り落とし、呟いた。
本音を言うと、ここにはよく死体処理にお世話になっている。
「ネーロさん」
「………」
「火はもう、消えてます」
「…そう」
恐る恐るこちらを向いた顔は真っ青であった。今にも倒れそうだ。
「結構、長く燃えてたのね」
「よく燃える物に飛び火しましてね」
「死体は?」
「処理しました」
火が苦手なのは誰が見ても分かった。
死体を燃やして処理した事は言わない方がいいと思った、なんとなく。臭いで分かっているかもしれないが。
普通は人を燃やすなんてあまりいいものでは無い、自分のように慣れているのがおかしい。
自分が10歳の頃、家族を家ごと燃やしてきた。それだけで慣れるのには十分だった。
「私の家が近くですから休んで行って下さい。酷い顔色だ」
よいしょ、と肩にネーロの腕をまわして立たせる。
「さん…」
「ネーロさん?」
「ね……さ…」
ねえさん。
「………」
顔を覗き込めは意識は無い。
その呟きは聞かなかった事にした。
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