騒がしい、まぁカジノだから当たり前ではあるが。
自分の顔を知る人物が、敵味方問わず多くいるだろう、と予測して適当に変装しては来た。邪魔はされたくない。
眼鏡を外し、カラーコンタクト(何となく赤にしてみた)を入れて、カジノという場所で浮かないような服装、高価なジャケットとか白いスーツとか着てみたりして。髪は下の方で括ってジャケットの中に入れた。
そういえば自分の悪友が見事なまでに金色になっていた事をふと思い出した。流石にあそこまで変えられない、と自然と笑いが込み上げてきた。
それにしても眼鏡を外した世界は中々新鮮である。
伊達眼鏡でもかけてると何となく違う。
「何がいいですかね…」
適当にキョロキョロして、ポーカーの台を見つけた。調度いい。
「組員相手に練習しましたからね、イカサマ」
この間は簡単に見抜かれたが、どれだけ自分の腕が上がったか試してみよう。
それに、イカサマし続けてれば目的の人物も現れるはずだ。
「俺も混ぜてくれないかな?お嬢さん」
そう言ってにっこりと微笑めば、目の前の女性は頬を赤く染めて頷いた。
それにしても敬語以外の口調も久しぶりで新鮮である。
だがそれもいい、たまには敬語じゃなくて普通の口調で会話したい。
「はい、俺の勝ち」
またかよ!!と隣の男が声を上げた。
中々自分のイカサマの腕は上がったらしい、全くバレる気配は無い。
たまに間に負けを入れてるのもあるだろうが。
「お前強いなぁ…2、3回位しか負けてねぇのな」
「金持ちは退屈なもんでね、まぁこんなお遊び位しか楽しむ事は無いのさ」
「そんな事言ってみたいぜ!!全く羨ましいな!!」
「まぁ、頑張って稼ぎな。でもカジノで使ってちゃ金も貯まらないか」
「違いねぇ!!」
何となく意気投合した男(名刺によると情報屋らしい。有名では無いが結構腕も性格もいい奴だ、是非連れていきたい)と話をしている時だった。
「へぇ…。次は私とやらないかい?そこのオカネモチサン」
周りの空気が一瞬張り詰めた。
話していた男が「ここを経営しているマフィアのボスだよ」と耳打ちした。
やっと来たか、と目を細め、
「いいよ、お姉様」
と挑戦的に笑った。
勝てるなどとは思っていない、何故なら勝負する前に勝負は決まっている。
ヒュ、と頬を掠めようとしたナイフ
を避け「顔に傷がつく所だった」と笑う。
顔に傷など付けたら「怪我したのか!?」と組員らに心配をかけてしまう。
ナルシストな訳では無い、決して。
「危ないね、お姉様。俺はナイフ投げの的じゃないよ」
「意外と姑息な手を使うじゃないか」
周りの客が何事かとこちらを見ている。
情報屋の男が壁に刺さったナイフを見て顔を青くしていた。
「部下と沢山練習したのになぁ。ばれたか、イカサマ」
「頭蓋骨に穴を開けたいか?」
「ご遠慮様、まだ死にたくないんでね。まぁ、別に俺は金稼ぎに来てる訳じゃないし金は返すよ。別の目的で来たんだ」
くっくと笑う。そろそろ潮時か。
これ以上無駄に話をしていたら本当に頭蓋骨に穴が開く。
今日は刀を持ってきて無いから防ぎようが無い。
「だって俺……いえ、私は貴女に会いに来たんですから。ルメールさん」
「……は?」
訳が分からない、といったように彼女、ルメールはこちらを見ている。
当たり前か。
「私ですよ」
ジャケットを脱ぎ、カラーコンタクトを外して懐にしまった眼鏡をかける。
ほら、スーツは白いですが、と手を軽く広げて見せれば、あぁ、と彼女はパシリ、とナイフで手を打った。
「帝か!!」
「はい、何時もお世話になっています」
「わざわざカジノでイカサマしなくても普通に会いに来ればいいのに」
「貴女が何処かへ脱走していると、貴女の部下が頭を痛めていたものですから」
「………あー」
「帰りますよ、貴女がいなければこちらの仕事も進みません」
はい、とイカサマで稼いだぶんのチップを近くのディーラーに渡した。
ついでにポカン、と自分を見ている情報屋の男に、考えておいて下さい、と自分の名刺を目の前に置いて、
「行きますよ、ルメールさん」
と彼女の腕を取って、引きずって行った。
背後から「マーレカテーナの首領ぉ!?」という叫び声と周りのざわめきが聞こえる。同時に「やだー」という不満の声が聞こえたが、それは無視する事にする。
そう、イカサマを見破られた時点でゲームは負けたが、彼女を捕らえた時点でこちらの勝ちは決定した。
「新作のね、ケーキが出来たんですよ。食べますよね?」
「勿論!!」
「でも仕事終わるまでケーキはお預けです」
「なんだとっ!?」
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