マフィアというものは中々飛び道具が多い。拳銃とか、ナイフとか。
そんな中、近距離戦を行うというのは中々骨が折れる。
そして自分が使う刀というものは遠い自分の故郷で使われていた武器で、この辺りではあまり見る事は出来ないという。
鑑賞用ならともかく、実戦用など中々見る事は無いかもしれない。マフィアの中でも刀を使っている者はいるが、やはり少人数である。
自分の持つ刀は昔、伝説で妖刀と呼ばれたムラマサ、退魔の力を持つというムラサメ、その二つの刀を模して作ったものだという。
名前負けせず、とても切れ味が良く何を切っても刃こぼれなど全くしない、どうやっても折れる事は決してない、と。そう、祖父に聞いた。
「しかし、折れやがりました」
「まぁ…どちらかしか持って行きませんから、ね。片方はまぁまぁ良い位の刀ですから」
折れた刀をぽい、と地面に捨てた。
これは故郷から入ってきた刀、まぁ良い部類には入るかもしれない。
中々もった方であるとは思うが、やはりあの二本には敵わない。
出し惜しみなどせずさっさと本気でやれば良かった。
彼相手にやはり小細工など通用しない、自分の力でやり合いをするしかない。
「その危ねぇ二本を持って来ればいいじゃねぇですか」
「大仕事の時には持って行きますが…」
「俺ごときに使う代物じゃねぇといいやがるのですか、貴様舐めくさっていらっしゃいますね」
「違いますよ。私自身があまり持って行きたく無いだけです。もったいないではありませんか」
貴方相手に、ムラマサとムラサメなんて。
ピンクの髪の男に目を向ける。
マラカイト、昔剣聖と呼ばれた男。
本来の実力は未だ見た事は無いが、きっと相当の物だと信じている。
経験だけでない、勘がそう言っている。ワクワクするのだ。
人殺しは好きでは無いが、強い相手と戦うとなるとまた別物。全く自分自身好戦的になるものだ。
しかし彼もまた本気を出していない。
「…まぁ、貴方が本気を出して下さるなら、考えない事も無いです」
「ななな何を言ってやがりますか!?俺は全然本気で…」
「全く、私はこれでも一応首領ですし、剣術を嗜んでいます。貴方はもっとやれるはずだと私は見ていますが」
「そ、そんな訳ねぇでございますよ!?ただのおっさんに期待しねぇで下さい!!」
まぁ、いい。自分が正しいとも限らない。
どうやって相手に本
気を出させるか、それも自分の剣の腕にかかっているのだ。
「…あ、そうそう。あの二本以外にもう一太刀、あるんですよ。あの二本に負けず劣らずの刀が」
「はぁ…」
「今日はムラマサと、そのもう一本でお相手致します」
まぁ、初めからそのつもりであった訳だが。
そう、ムラマサとムラサメ『ごとき』ではもったいない。
端に置いた鞄から、その刀を取り出した。久々に外に出してやった気がする、自分の師の遺品。
「私の剣の師が、遺したものです。銘は書いていませんが、マサムネ、と言います」
妖刀と呼ばれる刀、ムラマサを作った、初代村正。
その師とも言われている正宗。彼が作った刀は今でも最高の刀と言われている。
「貴方と戦うのであれば、この位はやりたいものです」
あの二本に負けず劣らずと言わず、それ以上の刀。本気で戦うなら、この刀で。
そうでないと剣聖と呼ばれる実力を持つ彼に失礼では無いか。
自分の師もきっとマラカイトと戦いたかっただろうに。強い相手を求めるのは剣士の性である。
ほら、貴方の目も輝いている。
「さて、やりましょうか?」
本気でお相手、致しましょう。
PR