綺麗な月夜だった。
白い月が自分髪や瞳の色のような青い光を放つ夜もいいが、下弦の三日月が紅い光を放つ今のような夜、そんな場面もいい。
だが風流を感じている場面では無いのは今の現状を見ればわかる。
無惨な死体、散らばる肉片、まるで呻き声が聞こえてきそうな苦悶の表情。
全く『騒がしい』と思った。
普通の人からすれば『恐ろしい程静か』なのだろうが。
「全く、酷い事をしますねぇ…」
ふぅ、とため息。
視線と言葉の行き先には紅髪の青年がいた。
「誰だ」
「わかるでしょう?私が誰であるか」
紅髪の青年は目を細め、鋭く光らせる。
「初めまして、『カスティガーレ』」
このような所でお会いするとは思いませんでしたよ、と微笑んだ。
カスティガーレ、裏の世界では有名な人物。今はネロネーヴェに所属していたはずだったか。
視線がかち合えば、カスティガーレは、マーレカテーナ、と呟いた。
「君の所の取引相手だったのか、俺が殺したのは」
「えぇ」
「いい取引相手だったらしい」
「えぇ」
「でもさほど損害になるとは思っていない」
「ついでに貴方に危害を加える気もありませんから武器をしまって下さい」
しかしカスティガーレは警戒しているのか、武器を仕舞う気配は無い。
「本当ですよ…全く…」
「分かっているが、いつ気が変わるかわからない」
「まぁ、いいでしょう。他には?何がわかりましたか?」
そう言えば、カスティガーレはほんの少し、訝しげな雰囲気を漂わせた。
「……何を言っている」
「読心術、得意なのでしょう?」
「……」
「まだ、あるでしょう?私が考えた事」
「…騒がしい」
「ええ、ここは本当に『煩い』ですね」
「俺には…何も聞こえない」
「そうでしょうね」
おしまい、とカスティガーレから視線を外した。
そして、彼の周りに視線を向ける。
一体どのように殺したのか、彼の周りには見るも無惨な異業の者達。ただの苦しみと怨みの名残。
パン、と手を叩けば簡単に吹き飛んでいった。
「やっと静かになりましたね」
そして残ったのは老人と家族とおぼしき人達。
家族は服装からして何処かの貴族なのだろう。
「ほう…いい所の出身なのですね。貴方が子供のうちに皆様お亡くなりになったようですが」
「……!?」
「そして、とある御老人に拾わ
れたのですね。とても愛されている」
「…何故」
「知っている、ですか?本人達に聞いたんです」
カスティガーレは訳がわからない、といった風にしている。
思考を読み取られた仕返し、としては少々行き過ぎたか。
「信じるか信じないか、それは貴方の勝手です。私には見えるんです、霊が。聞こえるんです、彼らの声が」
嘘は言っていませんよ、とカスティガーレを見れば、彼は軽く頷いた。
「中々、思考を読まれるというのも恐ろしいですねぇ」
「君に言われたくない」
「お詫びにケーキ持って遊びに行きますよ。ネロネーヴェに行けばよろしいのでしょうか?」
聞いたのか、とカスティガーレは言ったが、何の事かわからないのでもう何も聞いていない事を伝えた。
「ネロネーヴェに遊びに行く、なんてただの組員に出来る事なのか」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「マーレカテーナとしか」
「私はトパーズと申します。それでわからなければ貴方のお仲間にお聞きなさい」
そしてニコリ、と最後に微笑みを投げた。
「それではまた会いましょう、カスティガーレ」
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