クラウと出会って十年がたった。
チェルカーレバンビーノだったクラウは、今はマーレカテーナの一員だ。
最初に引き抜きされるって聞いた時、俺がアルジェントアラだからちょっと心配だったけど、
『そんなの気にしなくても大丈夫ですよっ!!しっかりとクラウはこちらで保護しますねっ!!』
なんて、トパーズさんが某不二家のキャラクターみたいな顔で親指立てるから、大丈夫なんだろうな、と思った。
ちょくちょく連絡がくるし、クラウが大怪我した時は土下座までしてきた。
その時はクラウが無事で良かった、って本当にほっとしたな。
「クロチェー!!ごはんー!!」
「はいはい」
少し落ち着いたとはいえ、やっぱり何処か子供っぽい所がある。
相変わらず、食が細いから体も細い。
病気がちだし、視力も落ち気味みたいだ。
血を、吐くらしい。
「…クラウ、」
「むー食べられないのは仕様が無いノ!!」
最近、あまり食べなくなった。顔色も悪い。
死の臭いはしないものの、このままでは倒れてしまう。
「少し、ね?」
「……ガンバル」
フォークの先で人参をつつきながら、クラウは渋々呟いた。
「うん、えらいえらい」
「子供扱いしないでヨ!!」
「あはは、してないよ」
ぷぅ、と頬を膨らまし、人参を口に放り込んだ。
「………んぅ!?げほっ!!」
「クラウ!?」
勢いあまって変な所に入ったらしく、思い切り噎せている。
どん、と背中を叩けば、ころん、と口に放り込んだ人参がそのまま出てきた。
「……ぷっ…あはは!!」
「モウ!!笑わないでヨ!!」
「だって!!ころんって!!ちゃんと噛まないと駄目だよクラウ!!あはは!!」
「クロチェなんて知らないっ!!」
「……ごめんなさい」
流石に笑い過ぎたかな、なんて思う。
クラウはそっぽを向いている。
気付かれないよう、ちょっとため息をついて台所へ向かう。
冷蔵庫を開け、求めていたものを手に取りクラウの元へ。
クラウはまだ拗ねていた。
「はい」
クラウの前にソレを置く。
綺麗な薄オレンジ色のシャーベット。
「これならクラウでも食べられるよ」
「……!!」
スプーンを渡せば爛々と目を輝かせ、一口頬ばった。
「美味しい~!!」
「うん、良かった。まずかったらどうしようかと思った
よ」
「え?コレ、クロチェが作ったノ?」
「クラウが食べられそうなものが思いつかなくて…」
だから、の先の言葉は続か無かった。
「クロチェ~!!アリガト~!!!!」
クラウが笑顔で抱き着いて来た。
というか、飛び掛かってきた、と言った方が正しいかもしれない。
クラウの勢いに負けて、そのまま二人して床に尻餅を着いてしまった。
「あいたたた…」
「イタタ…ゴメンネ……クロチェ…」
「大丈夫だよ、支えられなくてゴメン…クラウは怪我無い?」
「へーきへーき!!」
「うん…良かった」
ぎゅ、と抱きしめる。
やっぱり細いな、なんて思う。
…何時まで、こうしていられるのだろう。
クラウが、病気で死んでしまうかもしれない。
いや、もしかしたら俺が、先に殺されてしまうかもしれない。
「クロチェ?」
いや、違う。
そんな事を考えるんじゃない。
『何時か来る別れの時』を考えるんじゃなくて、『それまでに作る幸せ』を考えるんだ。
最期は、泣いても、泣きながらでも、下手な笑顔で、笑って『また、会おうね』って言えるように。
「クラウ、」
大好き、だよ。
愛してるよ。
だから、
「ずっと、幸せを作っていこう。二人で」
そう。
クラウの笑顔が俺を救ってくれるから。
クラウと一緒に、笑顔でいたいんだ。
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