『君の髪は空を現したいのかな?』
『なんですか?貴方は?』
それが彼女、テランと初めて交わした会話であったように思える。
彼女は自分の髪を蒼穹と言ったが、自分は彼女の、漆黒の髪から覗く蘇芳の色が綺麗だと思った。
そして、それから彼女は時々ここにやって来る。
甘いのが苦手な彼女に、甘さ控えめのケーキを。
紅茶はダージリンで。
今日もテランは一抹の寂しさを引き連れやって来た。
「最近ねぇ~。ボスが構ってくれないの」
彼女はウォルディンが大好きなのだ。
それはもう本当に。
寂しいのか、と聞けば自分のケーキを食べると寂しく無いと答える。
作っている方としては嬉しい限り、であるが彼女自身にとってはどうなのか。
正直。
ファミリーの仲間といる方が彼女は楽しそうだ。
「嫉妬しまくりな醜いウチの為に作ってくれるなんて優しい人だね」
「おやおや。弱気な貴女を見たらウォルディンもビックリしますよ」
嫉妬という感情が別に醜いとは思わない。
誰であれ嫉妬はする、当たり前の感情を醜いと言ったのは誰なのか。
ただ彼女の元気の無い姿はいかんせん、こちらも寂しくなるというもの。
「大丈夫ですよ」
だから、彼女を元気づけるちょっとしたプレゼントを。
彼女の携帯の着信音が鳴り響く、あぁ、やっとかかってきた。
『もしもし、ウォルディン?』
『…あぁ、トパーズか。どうした、首領直々の依頼でも?』
『それはまた後で、今は違います。貴方の所の猫さんが今私の家にいます』
『テランか?』
『はい。しょんぼりしている彼女に電話してさしあげて下さい、私では手に負えません。彼女に一番の笑顔を与える事が出来るのは貴方達ですから』
彼女の黄色い悲鳴が聞こえた。
先程までの表情は何処へやら、今では辺りを跳ね回り出さん位の勢いだ。
「やはり貴方は、ファミリーの仲間といる時が一番楽しそうだ」
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