「…」
別に自分がやらなくてもいいか、なんて刀を納めた。
目の前の悪友は楽しそうに、爛々と目を輝かせ戦っている。
首領である自分を狙ってきたのだから、それなりの敵な筈だ。
だから彼は楽しいのだろうけど。
「プライベート位は大人しくしていて欲しいですねぇ」
なんてボソッと呟いても仕様が無かった。敵にそんなのは関係無いらしい。
わらわらと出て来る敵。
「おやおや、沢山出て来ましたねぇ」
やり甲斐があるのでは無いですか?とにっこりヴェローチェは黒い笑みをこちらに投げかけた。
売られた喧嘩は買うらしい、否、すでに買っている。彼は普段は必要以上に戦闘はしない。仕掛けて来たのは向こうだ。
やる気らしいヴェローチェとは正反対に自分は面倒です、と大人しくヴェローチェを観察する事にした。
「全く、仕様の無い方だ」
「なら逃げましょうよ」
「今の状態で逃げられるなら、の話ですがね。それに、仕掛けて来たのは向こうです。それに応えてあげるのは当然でしょう?」
「…貴方が楽しいだけでは無いですか」
彼は本当に楽しそうに戦う。興奮するとかなんとか。まぁそれが何故かは知らないが。
武器はナイフを主に使うらしい。
だが自分のようにさっさとすませる訳でも無く、じわじわと、相手をゆっくりと削っていく。腕や足の筋を段々に切っていくのもそうだが、たまにわざと急所を外したり。
そして自分が怪我をするのも構わずに。
敵の脇腹にヴェローチェのナイフがえぐり込まれたのを見て、ナイフもいいかな、なんて思った。
「貴方も戦って下さいよ、トパーズ君」
ヴェローチェが苦笑してこちらへ飛びのいて来た。
敵の人数はだいぶ減っている。
「え~年寄りをこき使わないで下さいよ」
「21歳の何処が年寄りですか。奴らの狙いは貴方でしょう?」
「ヴェロさんだけで十分ですよ、あんな雑魚」
そう吐き捨てれば、相手は怒りで顔を赤くした。
戦いもしないのに挑発しないで下さいよ、と呆れたように言うヴェローチェも、顔は楽しそうに歪んでいる。
全く困った悪友だ、とお互いに笑った。
「行きますか?」
「頑張って下さ~い」
ひらひらと手を振れば、ヴェローチェはやれやれ、と溜息をついて地面を蹴った。
よいしょ、と腰を降ろし膝に肘をついて戦闘を眺める。
いつ加勢をしようかな、とタイミングを計るが
、やはり彼には必要なさそうであった。
パンっ!!
一発の銃声が響いた瞬間、自分の髪が靡くのを感じた。
すれすれに飛んだそれはリボンの紐をちぎり、自分の眼鏡を吹き飛ばし、ヴェローチェの肩を掠り、壁にめり込んでいった。
さらり、と髪が肩に落ち流れていくのを感じる。
ヴェローチェは驚いた顔をしてこちらを見ていた。
嗚呼、面倒くさい。
懐から拳銃を取り出し、一発の弾丸を後方に放つ。
苦痛の叫び声の後にヒュ、と何かが風を切り飛んでいった。
恐らくナイフだ。
ドサリ、と何か重たいものが倒れる音がした。
「おやおや、相変わらず下手くそな銃の腕前ですねぇトパーズ君」
「見て撃って無いんですから仕様が無いです」
「貴方に使われている拳銃が可哀相ですから私に貸して下さいよ」
使えるんですか?投げて寄越す。
「戦闘にも華があったほうがいいでしょう?」
パンパンパンっ!!
「全く」
あんまり騒がしくするとアルジェントアラが来てしまいますよ、と苦笑する。
「私はあの子供達の相手はしたくないですからね、後々面倒ですから」
「……」
無言でパンっ、とまた一発。
「さて、私もやりますか」
そろそろ飽きてきた。
すらり、と鞘から刀を二本抜く。
「…トパーズ君」
「はい」
「私まで巻き込まないで下さいよ」
「善処します」
「貴方はキレたら怖いんですから」
嗚呼、愉しくなってきた。
ヴェローチェにはばれているであろう、もう一つの自分。
「…フフ、死ンデ下サイ」
「全く、えぐい事をしますね」
片付けが面倒じゃないですか。とヴェローチェは死体を転がしながら言った。
「…善処したつもりですよ」
「私に頭殴られるまで気付かなかった癖に、よく言いますね」
「まぁ…それは…はい、すいません」
刀の血を払い落とし、鞘に納める。
返り血がべたつき不快感に顔を歪めた。
「何処のどちら様でしょうねぇ」
「さぁ、分かりません」
ばらしちゃいましたから、と苦笑する。
ふと、人が来る気配を感じた。ヴェローチェも同じらしい、興奮冷めやらぬままなのか臨戦体制に入っている。
「……二人、ですかね」
懐に手を入れ、握ったのは発煙筒。
この気配の主が誰であるかはよく分かっていた。
「ヴェロさん」
「はい」
「逃げますよっ」
「…はい?」
発煙筒に火を付け、ぽい、と放る。
ぼふっという腑抜けた音と共に煙が辺りを覆った。
「うわっ!!何これ何も見えない!!くれやん何処っ!?」
やっぱりあの二人だったか、と息を吐く。面倒だ、特に茶色の方が。
行きますよ、とヴェローチェを見れば、彼は煙の立ち込める方をじっ、と見ていた。
「捕まりたいんですか、ヴェロさん」
「…まさか」
じゃあ行きますよ。
そう言って悪友の髪の毛を引っ張った。
「痛っ!!…トパーズ君、貴方こそ逃げる気あるんですか」
「さっさと来ない貴方が悪いんですよ」
そう言って、塀から屋根へと飛び乗った。
む、とした顔をしてヴェローチェもついて来る。
「ヴェロっ!?」
後ろから聞こえた声に無視をした。
勿論、色々面倒だから。
「…」
「危なかったですねぇ」
「そうですねぇ」
「大丈夫ですよ、見えてませんから。ばれてません」
「そうでしょうかねぇ」
「刀傷で私って事はばれるでしょうけど」
全く、面倒くさい。
また懸賞金が上がるだろうか、最近奇襲が本当に多いように感じる。
「ま、どうなるかは成り行きに任せましょう。何とかなるでしょう」
「そうですね、私が捌いた死体までぐちゃぐちゃにしたのは貴方ですからね。大変でしょうが頑張って下さい」
「…貴方の犯行の跡まで消してしまいました、私とした事が」
「こちらは大助かりですよ」
フフ、とヴェローチェは笑う。
嗚呼、本当面倒くさいな。
今日何度目か分からない溜息をついた。
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