親父が撃たれた。
「………は?」
その連絡を受けた時、俺はハヤテと見回りの最中だったと思う。あまり覚えていない。
「…どういう…事だ?」
マフィアに襲われたのだという。
意識不明の重体、助かるかもわからない。
その事実が脳に届いた時には、携帯は地面で粉々になっていた。
「く…くれやん…?」
銃口から発する煙の向こう、当たり前だがハヤテは驚いた顔で俺を見ていた。
「…親父が」
淡々とその事実を告げれば、ハヤテはみるみる顔を青くして「病院!!」と俺が病院名を告げる前に走り去ってしまった。
多分大丈夫であるから放っておいたが。
粉々になった携帯電話。
俺は不思議と冷静だった。
「……またマフィア、か」
それしか無かったからだろうか、ただ親父が死ぬかもしれない、その事実に応えたのはマフィアへの憎悪だった。
+++++++++++
「…クレセア、やり過ぎだヨ」
「そうか?」
刀の血を拭い、腕に納めた。後ろでクラウが震えている。
周りにはマフィアの死体。三人、今日は少ないな。
「…次、行くか」
「まだやるノ!?」
「勿論」
「昨日大怪我したジャン!!今日も怪我してるでショ!?」
「問題ない」
「大有りだヨ!!」
親父が凶弾に倒れて三日目、意識はまだ戻らない。
俺はただ殺していた。
アルジェントアラとしての仕事は勿論、ちゃんとしている。
だがこれは俺個人でやっている事。
アルジェントアラの皆で『親父を撃ったマフィア』を探す中、クラウの情報を元に、一人俺は『マフィア』を探した。
「そんな事したってノークトも、クレセアのお父さんも喜ばないヨ!!」
「……」
「クレセアのお父さんはマフィアに殺されたんだよネ、ノークトもマフィアに撃たれたヨ。だけど沢山マフィアを殺して復讐する事が二人の幸せなノ?…ボクは違うと思う」
「……」
核心を突かれたと思った。
それは昔から、ハヤテにも、あの青フンにも、勿論親父にも、言われてきた事。
昔を思うと、マフィアを憎しみのままに殺し、家族を殺されたその苦しみや辛さを払う、それはただの自己満足に思えた。
「………あぁ、違う」
「なら…」
「だが別に構わない」
「エ…?」
別に構わない。
父さんや、親父が悲しむのは嫌だが
、別にいい。
俺の為に悲しむ事はしなくていい。
「もう、失わせたくない失いたくない。それだけだ」
幸せを奪おうとするなら、先にこっちから奪う。
人間そうやって生きる生き物だ、誰かを犠牲にしなくては生きてなどいけやしない。
もう俺の手は汚いんだ。汚い事は汚い奴がやればいい。
綺麗なあいつらの世界を汚す事は無い。
どちらにしろ、自己満足なだけだけども。
「…でも、間違ってル。何がとか…上手く言えないケド…間違ってル」
「俺もそう思う」
ただ、頭は冷静だった。
++++++++++
「……」
皆、泣いている。
親父が目を覚ましたから。
泣きそうな顔だ、と言われて俺にもまだ嬉しくて泣ける感情があるのか、と思った。
「おやおや、貴方は行かないのですか?」
「何故貴様がいるんだ」
「何故でしょうねぇ?」
この桃フンが、と憎しみを込めて吐き捨てればハイハイ、と流された。
「行けばいいじゃないですか」
「別に」
「怖かった癖に」
「怖くなど」
「少なくとも」
貴方の仲間達は気付いていたでしょうね。
そう言ってヴェローチェは目を細めた。
ハヤテを見てるのだろう。
「…」
皆が親父を取り囲んで、喜んで泣いている。
お前ら病院で騒ぐな!!と口では厳しく言う親父も、また嬉しそうに微笑んでいて。
もしかしたら、
何も語らない、親父の死体を囲んで皆で悲しみ泣いていた、かもしれなかった。
(オトウサン、メヲアケテ!!――…)
しらない、そんなもの。
しらない。
つ、と頬に涙が伝い、落ちていった。
「……怖かったさ、だから殺したんだ」
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